人間は限定合理的な(boundedly rational)存在であって、毎度毎度最適な選択肢を探し求めるよりはヒューリスティック(heuristics)に頼って意思決定を行う傾向にある。しかしながら、ヒューリスティックに頼って行動した結果がいつでも自らのためになるとは限らない。
2001年のテロ事件発生以降の数カ月において、アメリカの主要な航空会社の乗客マイルは12%~20%ほどの減少を記録し、その一方で道路の利用(車での移動)は大きく増加することになった。
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リスクの問題を専門的に研究しているゲルト・ギーゲレンツァー(Gerd Gigerenzer)教授は、9・11テロ以降の1年間で(車での移動が増えた結果として)追加的に1595人のアメリカ人が自動車事故で命を失うことになったとの推計結果を明らかにしている。この1595人は9・11テロの悲劇の間接的な犠牲者だと言えよう。
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このようにして生じた(1595人の)追加的な死の原因は人々の貧弱なリスク理解にあるとギゲレンツァー教授は語る。「人々はフライパンから火の中へと飛び込んだわけです。」
「我々人類は、一度に多くの人々が命を失う状況を恐れるような進化的な傾向を備えています。このような傾向はおそらくは我々の先祖が小さなグループでまとまって生活していた頃の名残だと思われます。小さなグループでまとまって過ごしている状況においては、グループの一部のメンバーの死によってそれ以外のすべてのメンバーの命まで危険な状態に晒される恐れがあります。」
「今や私たちはもはや小さなグループでまとまって生活しているわけではありません。しかしながら、死者の数自体は同じであっても、それが一度の事件・事故での結果である場合と1年間の累計の結果である場合とで人々が感じる恐れには違いがあるのです。」
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