2013年8月10日土曜日

Andy Harless 「タフでマッチョなハト派? タカのようなハト?」

Andy Harless, “Why Doves Are Really Hawks”(Employment, Interest, and Money, February 13, 2013) 

マッチョ(Machismo)はコミットメント・メカニズムの一種である。

仮にあなたが徹底的なまでに合理的なオタク(perfectly rational nerd)であるとしよう。その場合、周囲の人々はあなたが合理的な振る舞いをするはずだと常に予想することだろう。そのため、あなたは信じるに足る脅し(credible threats)を行うことはできないだろう。というのも、あなたの脅しが周囲の人々から信頼されるのはその脅しを実行することがあなたにとって合理的な場合に限られるが、脅しをそのまま実行に移すことが合理的であるケースなどほとんどないだろうからである。(「ケツを蹴っ飛ばしてやるぞ」と脅しておいて実際にも)他人のケツを蹴飛ばす(whoop someone’s ass)ことが合理的な状況が一体どのくらいあると言うのだろうか?

一方で、仮にあなたがタフでマッチョなごろつき(badass)であるとしよう。その場合、周囲の人々はあなたがタフでマッチョでたちの悪い振る舞いをするはずだと常に予想することだろう。そのため、あなたはいつでも信じるに足る脅しを行うことができることだろう。というのも、脅しをそのまま実行することは、タフでマッチョでたちの悪い行いに他ならないからである。こうしてあなたの脅しは周囲の人々から信じるに足るものと見なされることになるが、まさにそれがために脅しが実行に移される機会は滅多に訪れることはないだろう。

以上の議論は金融政策のよく知られた話題(訳注;時間不整合性(time inconsistency)の問題)に対しても応用することができる。仮にあなたの国のセントラルバンカーが徹底的なまでに合理的なオタクであるとしよう。その場合、あなたの国ではインフレが非常に高い水準に達することになるだろう。というのも、セントラルバンカーが「(インフレを抑制するために;訳者挿入)不況を起こすぞ」と脅したところでそれが信じるに足るものと見なされることはないだろうからである。大抵のケースにおいてそのような脅しを実行することは合理的ではなく、そのために人々はセントラルバンカーが脅しを実行するとは予想だにしないことだろう。不況を起こすことが合理的な状況が一体どのくらいあると言うのだろうか?

一方で、あなたの国のセントラルバンカーがタフでマッチョなごろつきであるとしよう。その場合、あなたの国ではインフレが高止まりすることはないだろう。というのも、セントラルバンカーが「不況を起こすぞ」と脅した場合それは信じるに足るものと見なされるだろうからである。不況を起こすことは(そのセントラルバンカーにとって)タフでマッチョでたちの悪い行いであり、そのために人々はセントラルバンカーがその脅しを実行するはずだと予想することだろう。セントラルバンカーの「不況を起こすぞ」との脅しが信じるに足るものであるために、人々は価格の設定に慎重になる(価格の抑制に向かう)だろうが、まさにそれがためにセントラルバンカーが脅しを実行する必要はないことになろう(確かに、実際のメカニズムはもう少し複雑だが、あらましとしてはこうなる)。

さて、そこで質問である。インフレの高止まりをどうしても避けたいと願う場合、どのようなタイプの人間がセントラルバンカーの座に就くことが望ましいだろうか? その答えは言うまでもなく明らかだろう。タフでマッチョなごろつきである。ディナー用の食材を獲得するために自らのかぎづめで喜び勇んで小動物を掴み上げるようなタイプの(タカのような;訳者挿入)セントラルバンカーである。反対に、こぎれいな見た目でくうくう鳴きながらそこら一帯を喜び勇んで飛び回るようなタイプの(ハトのような;訳者挿入)セントラルバンカーは御免被りたいことだろう。

このような理論は1980年代においてはかなり筋の通ったものであったが、それ以降現実の世界は変化を遂げることになった。過去20年間においてインフレ率はそれほど高い水準にはなく、今現在我々は穏やかな不況の真っただ中に置かれている。この穏やかな不況から抜け出すための手段の一つは、「インフレを起こすぞ」と脅すことにある。「機会さえあれば、現金の購買力を毀損させる(インフレを引き起こす)つもりだ」と脅しをかけることで、人々に対して手持ちの現金や金融資産を使って何か有益なことをはじめた方が得策だ、と思わせるわけである。確かにやがて時が来ようものなら(訳注;実際にインフレが高まりを見せることになれば)、「インフレを起こすぞ」との脅しを実行することは合理的ではないことになろう。それゆえ、仮にセントラルバンカーが徹底的なまでに合理的なオタクであれば、その脅しは信じるには足らないものとなるだろう。

さて、そこで質問である。現在我々が直面している不況からどうしても抜け出したいと願う場合、どのようなタイプの人間がセントラルバンカーの座に就くことが望ましいだろうか? その答えは言うまでもなく明らかだろう。タフでマッチョなごろつきである。ディナー用の食材を獲得するために自らのかぎづめで喜び勇んで小動物を掴み上げるようなタイプのセントラルバンカーである。ところで、言うまでもなく私は鳥類学の専門家ではないが、このようなタイプのセントラルバンカーを「ハト(派)」(“dove”)と呼ぶのは適切ではないように思われるのである。

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