Gauti B. Eggertsson, “Abenomics and FDR”(Economic Notes, April 4, 2013)
過去数ヶ月の間に経済政策の分野で起こった最も注目すべき出来事は、日本銀行と日本政府がデフレからの脱却に向けて金融政策と財政政策を「協調させる(コーディネートさせる)」決意をはっきりと固めたことだろう。新しい首相(安倍晋三)の名前にちなんで「アベノミクス」と呼ばれ出しているが、長年にわたって続いたデフレから脱却して年率およそ2%のインフレ率を達成することが目標として掲げられている。その目標を達成するための手段についてもあれこれと概要が伝えられている。
何が意図されているかは明らかだ。インフレ期待を喚起して実質金利を引き下げるというのがまず第一だ。デフレではなくインフレが予想されるようになれば、実質金利が低下する。そうなると、お金を将来のためにとっておくよりも今すぐに使おう(支出しよう)という気になる。つまりは、インフレ期待が喚起されたら、通常の金融政策と同じような経路を通じて総需要が刺激されると予想されるのだ。次に、借り手が負う債務の負担を和らげるというのが第二だ。ほどほどのインフレになれば、借り手が負う債務の負担が和らいで、そのおかげでまたもや総需要が刺激されるかもしれない。景気が大きく落ち込んでいる中で過剰な債務が積み上がり、その圧縮(「デレバレッジ」)を余儀なくされている家計なり企業なりが少なくないケースにおいては特に。
興味深いことに、アベノミクスと極めて似通った政策が1933年に米国の大統領に就任したばかりのフランクリン・D・ルーズベルトによって試みられている。政策レジームを構成する要素の大半がそっくり同じで、目標とするインフレ率が違うくらいだ。ルーズベルト大統領の方がアベノミクスよりも高めのインフレ率の達成を目標にしていたのだ――ルーズベルト大統領は、不況に陥る以前の水準にまで物価を引き上げる(リフレートする)ことを誓ったが、それはかなり高めのインフレ率を受け入れることを意味していた。この点については、2008年に書かれた拙論文(pdf)を参照していただきたい――。「ニューディール」政策の中でもこの要素は大きな成功を収めて、アメリカ経済が1933年から1937年にかけて急速な景気回復を成し遂げるのに貢献したというのが私の判断だ――しかしながら、うまくいった一連の政策も “Mistake of 1937”(pdf)(「1937年の過ち」)によって放棄されてしまい、アメリカ経済は再び不況に陥る羽目になってしまった――。これまでに日本政府が発表している政策も経済成長を加速させるのに同じように大いに役立つに違いないというのが私の判断だ。しかしながら、2%というインフレ率の目標値がちょいと低いのではないかというのが気がかりではある。どうなるかはこれからわかるだろう。ともあれ、私なりに何よりも肝心だと思うのは、日本政府がルーズベルト大統領と同じように「リフレーション」(“reflation”)を最優先課題に掲げて、リフレーションを達成するために必要なことなら何でもするつもりであることを前面に出していることだ。
ルーズベルト大統領が政策実験に乗り出した直後に放映された「インフレの宣伝」動画を以下に貼り付けておこう。講義で学生たちと一緒に視聴したこともある。インフレが総需要を刺激する二通りの経路については上でも述べたが、この動画でそのどちらについても触れられているのに気付くだろう――私がずっと前から取り組んでいる主要な研究テーマが第一の経路だ。例えば、こちらの論文(pdf)とか、マイケル・ウッドフォードとの共著論文(pdf)とかで分析を加えている。第二の経路(再分配経路)については、ポール・クルーグマンとの共著論文(pdf)で分析を加えている――。
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