Cory Doctorow, “Solving the "Longbow Puzzle": why did France and Scotland keep their inferior crossbows?”(Boing Boing, January 20, 2016)
ロングボウはクロスボウよりも性能がだいぶ優れていたが、軍の主力武器として取り入れたのはイングランドだけだった。フランスやスコットランドの軍隊は、性能面で劣っていたクロスボウを1世紀近くも使い続けたのである。その理由は?
歴史家たちを何十年にもわたって悩ませてきたこの謎――「ロングボウパズル」――の答えを二人の経済学者が提示している。サイモン・フレーザー大学に籍を置くダグラス・アレン(Douglas Allen)と、ジョージ・メイソン大学に籍を置くピーター・リーソン(Peter Leeson)の二人が Journal of Law and Economics 誌に掲載された論文で、ロングボウパズルを解いているのだ。
フランスやスコットランドの王は、反乱を恐れるあまりに、兵にロングボウを持たせたがらなかったというのが二人の言い分だ。その一方で、イングランドは政情が比較的安定していたので、安心して兵にロングボウを持たせることができたというのだ。その結果として、イングランドは外敵との戦争で優位に立てたというのだ。
論文のアブストラクト(要旨)を引用しておこう。
ロングボウは、中世ヨーロッパにおける飛び道具界の無二の王の地位に一世紀以上にわたって君臨した。しかしながら、軍の主力武器として採用したのはイングランドだけだった。フランスやスコットランドの軍隊は、性能面で劣っていたクロスボウに固執したのである。何十年にもわたって歴史家たちを悩ませてきた謎である。本稿では、「制度によって制約された技術選択」理論の観点からこの謎に切り込む。ロングボウは、クロスボウとは違って、安価で作るのが簡単で、戦場で使うつもりであれば大勢の射手を養成する必要があった。ロングボウのこれらの特徴ゆえに、軍の主力武器として採用すると、王の座を狙う貴族がロングボウの扱いに慣れた大勢の兵を束ねて反乱を引き起こす可能性が生まれたのである。どの飛び道具を軍の主力武器として選ぶかをめぐって、王(支配者)はトレードオフに直面していたのだ。内乱を防ぐか、それとも国防を強化するかというトレードオフに。中世末期のヨーロッパで、飛び道具として最も優れていたロングボウを選んでも反乱が起こるのを心配する必要がないくらいに政情が安定していたのはイングランドだけだった。政情が不安定だったフランスやスコットランドでは、クロスボウがやむなく選ばれたのだ。
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