このブログの定期的な読者であればご存知のように、私が興味を抱いている対象の一つが「経済制度」である。制度とは何かというと、「ゲームのルール」と定義されるのが通常である。もっと具体的に踏み込むと、インセンティブを形作ることによって一人ひとりの意思決定に影響を及ぼす一連のルールならびに組織――フォーマルなものであれ、インフォーマルなものであれ――の総体が制度だ。成文法も含まれるし、自発的に従われる行為規範も含まれる。文化的な信念(cultural beliefs)も含まれる。今回のエントリーの主題というのが、最後に触れた「文化的な信念」である。
本日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で、ナイジェリアのバイクタクシーについて取り上げられている。具体的には、ナイジェリアのバイクタクシーがいかに危険であるかがテーマだ。バイクタクシー絡みの事故があまりにも多いので、バイクタクシーの事故で負傷した患者専用の病棟を用意している病院もあるくらいだという。
バイクタクシーの乗客にヘルメットを被ってもらおうとあれこれと手が打たれたが、うまくいかなかったという。その主たる理由は、迷信(文化的な信念)にある。ナイジェリアでは、ヘルメットが頭に直に触れると、邪悪なジュジュ(精霊)の呪いにかかってしまって、災難に巻き込まれるおそれがあると広く信じ込まれているのである。この世から突如として消え去ったり、脳を失ったり、運を吸い取られてしまうおそれがあると広く信じ込まれているのだ。ナイジェリアの人々がヘルメットを被らないという選択――しばしば悲劇的な結末を伴う選択――をしているのは、ヘルメットを被るコストが迷信のせいで高く感じられて、ヘルメットを被るおかげで得られると予想される便益を上回るからだ。すなわち、ナイジェリアの人々は、便益とコストを比較した上で、「論理的」な選択をしているのだ。
ここで登場するのが、一人の起業家である。ヘルメットと頭の間に挟むことができる布帽子を開発したのである。布帽子を被れば、頭がヘルメットに直に触れずに済むので、ジュジュ(精霊)の呪いに対する恐れが和らげられる――皆が皆というわけにはいかないだろうが――。衛生面の問題をはじめとして色々と課題はあるものの、重要なポイントは次の点にある。この起業家が新たなマーケットを発見して開拓するのに成功したのは、この地に特有の制度的要因を理解していたからこそなのだ。安価な競合品――例えば、ハンカチ――が数多く存在していることを考えると、彼がこれからどれくらい成功を収められそうかはわからない。ライバルが続々と参入してくる可能性もある。ともあれ、この事例は、制度と起業家精神との関わりをめぐる興味深いケースであることは間違いない。
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