2013年8月30日金曜日

Tyler Cowen&Kevin Grier 「ムードに流される非合理的な投票者? ~カレッジフットボールの試合結果が大統領選挙の行方を左右する?~」

Tyler Cowen and Kevin Grier, “Will Ohio State’s Football Team Decide Who Wins the White House?”(Slate, October 24, 2012) 
「民主主義に対する最も説得的な反論を知りたければ、平均的な有権者と5分間ほど会話することをお勧めする。」( “ The best argument against democracy is a five-minute conversation with the average voter.”) -ウィンストン・チャーチル

2012年の大統領選挙は――選挙人団の投票、一般投票のどちらもともに――、どうやら接戦になりそうである。有権者の投票行動を理解しようと努めるのはいつであれ重要だが、選挙戦が緊迫している場合にはその重要性はなお増すことになろう。

有権者が挑戦者に希望を託して票を投じたり、現職に「ノー」を突きつける背後には、一体どんな要因が控えているのだろうか? 有権者は、失業率、GDP、インフレ率の水準やそれらの変化の方向性(訳注;失業率が改善しつつあるのか、それとも悪化しつつあるのか/GDPの成長ペースが加速気味か、それとも減速気味かetc)を考慮に入れて投票するのだろうか? 投票の行方は、各陣営が提示する政策方針書(position papers)や候補者のこれまでの履歴(personal history)に左右されるのだろうか? テレビで放映される候補者の選挙用CMや討論会でのパフォーマンスの出来は、有権者の行動に影響を及ぼすのだろうか?

有権者を突き動かすのは、もしかするとこれらのどれでもないかもしれない。最近の研究によると、有権者が抱える非合理性(voter irrationality)は、想像以上に恣意的であるようだ。紙一重のきわどい選挙においては、有権者の非合理的な振る舞いが最終的な結果に決定的な違いをもたらす可能性がある。それでは、有権者が抱える非合理性は、どんなかたちをとって表出するのだろうか? 最近の研究によれば、投票が実施されるその同じ州で直前に行われたカレッジフットボールの試合結果がホワイトハウスへの切符を賭けたレースの行方を決定づける可能性があるという。

そのことを実証的に明らかにしているのが、アンドリュー・ヒーリー(Andrew Healy)&ニール・マルフォートラ(Neil Malhotra)&セシリア・モー(Cecilia Mo)が共同で執筆し、『米国科学アカデミー紀要』(Proceedings of the National Academy of Science)に掲載されている大変魅力的な論文である。この論文では、大統領選挙、上院議員選挙、州知事選挙の直前に行われたカレッジフットボールの試合結果が有権者の投票行動にどんな影響を及ぼしたかが検証されている。そして、投票日前の1週間内に行われたゲームで地元チームが勝利すると、現職の得票率がおよそ1.5ポイント(1.5パーセントポイント)だけ上昇するとの結果が見出されている。さらに、観客動員数トップ20のチーム――ミシガン大学、オクラホマ大学、南カリフォルニア大学といったビッグチーム――が投票日の直前に勝利すると、現職の得票率は3ポイント(3パーセントポイント)も上昇するという。かなりの票数であり、接戦の選挙戦を有利に戦う上で決して無視できない数だ。なお、以上の結果は、ごく限られたゲーム数や少数の選挙戦のデータから得られたわけではないことを指摘しておこう(彼らの実証分析では、1964年から2008年にかけて行われた全米62のトップチームの試合のデータが利用されている)。

スポーツには、我々を元気づけ、日々の生活に輝きを添えてくれる力が備わっている可能性があるわけで、このことは良い報せと言えるだろう(・・よね?)。応援するチームが勝利すると、そのチームのファンは、競技場においてだけでなく、競技場の外でも、幸せを感じる。満足感を覚える。幸せや気持ちの高ぶりを感じている時、人は現状に満足しがちになる。そして、現状への満足感が、現職の政治家を支持するというかたちをとって表れる――それがどんなに非合理的な振舞いであるとしても――。

ヒーリーらの論文では、経済面・人口統計学的な属性面・政治面の諸要因に対してコントロールが加えられている。それゆえ、先に言及した結果は、大雑把な相関よりもずっと精緻なものだと言える。また、人々の予想を考慮に入れた分析にも踏み込まれており、予想外の勝利には特に強い力が備わっていることが見出されている。地元チームが予想外の勝利を収めると、現職の得票率がおよそ2.5ポイント(2.5パーセントポイント)上昇する傾向にあるというのだ。

このような現象は、フットボールだけに限定して見られるわけじゃない。ヒーリーらの論文では、2009年度に行われた全米大学体育協会(NCAA)主催のバスケットボールトーナメントのケースも検討されており、(フットボールのケースと)ほぼ同様の結果が得られている。また、1948年~2009年の期間に実施された市長選挙を対象に、バスケットボール、フットボール、野球のプロの試合が市長選挙に及ぼした影響を検証している別の研究によると、地元チームがシーズンを通じて好調な成績を残すと、現職の得票率がいくらか上昇することがわかっている。

ただし、カレッジフットボールや野球の試合が選挙結果を決定づける「主要な」要因だとまで言い募るつもりはない。オクラホマ大学のスーナーズ(Sooners)が100連勝しても(現職の)オバマ大統領がオクラホマ州で勝てない可能性もあるし、UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)のフットボールチームがボロ負けを喫したのに(挑戦者の)ミット・ロムニーがカリフォルニア州で敗れる可能性もある。ESPNスポーツセンターが報じる試合のスコア以外の要因も大いに重要であることは言うまでもないのだ。

とは言え、これら一連の結果が驚くべきものであることに変わりはない。それというのも、ヒーリーらも指摘しているように、現職の政治家は、スポーツの試合の行方と何の関係も無いにもかかわらず、試合結果に対して称賛を受けたり責任を問われたりするというわけだから。我々がいかに気まぐれでムードに流されやすい存在かを示す証左であると言えよう。スポーツを含めたポップカルチャーが「投薬」された状態で日々の意思決定を行っているかもしれないと考えると、ちょっとゾッとする思いだ。スポーツのスコアがこんなにも重要な役割を果たしている可能性があることを踏まえると、果たして有権者は政治に関わる基本的な情報――経済のパフォーマンスに関するデータなど――を合理的に処理(解釈)しているのかどうかについても疑ってかかるべきかもしれない。

さて、ここで極端なシナリオを想定するとしよう。今のところは、現職のオバマ大統領が挑戦者のミット・ロムニーを若干リードしているようだが、今回の選挙は接戦になるだろうというのが大半の専門家の見立てだ。共和党陣営が勝利するためには、フロリダ州、オハイオ州、ヴァージニア州の3つの激戦州(swing states)がキーとなる可能性がある。

来る10月27日――投票日の1週間とちょっと前――に、オハイオ州とフロリダ州で2つの大きなフットボールゲームが実施される。オハイオ州では、地元のオハイオ州立大学のバッキーズ(Buckeyes)がペンシルベニア州立大学のニタニー・ライオンズ(Nittany Lions)を迎え撃つ。フロリダ州では、地元のフロリダ大学のゲイターズ(Gators)がジョージア大学のブルドッグス(Bulldogs)を迎え撃つ。大統領選がこのまま接戦のままのようであれば、これら2つの州での2つのフットボールゲームの行方がこれからの4年にわたって誰がホワイトハウスで指揮を執るかに影響を及ぼす可能性がある。夜遅くにバッキーズのヘッドコーチであるアーバン・マイヤーのもとにオバマ陣営から電話があって、ブリッツ(守備の戦術)についてアドバイスが送られる・・・なんてことがあったりするだろうか? ロムニー陣営からゲイターズに対して、ブルドッグスのラン・プレイを防ぐためのアドバイスが寄せられる・・・なんてことがあったりするだろうか? 大事なフォース(4th)ダウンでの決断――パントを選ぶか、タッチダウンを狙うか――は、フットボールチームのコーチ陣以外の人々の前途にも影響を及ぼす可能性があるのだ。

地元チームの勝利は、ビール・ゴーグル効果の選挙版みたいなものだ。地元チームの勝利のせいで判断が曇らされて、翌朝になって後悔するってわけだ。ビール・ゴーグル効果に屈した面々が朝ベットで目覚めて開口一番につぶやくセリフを借りると、「そんなはずはない(That just ain’t right)」というわけだ。

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