2014年9月19日金曜日

Z. G. 「経済学者は世論に影響を及ぼせるのか?」

Z. G., “Economics for the masses”(Free exchange, August 20, 2014) 

これまで経済学者は堅苦しい存在として捉えられがちだった。しかしながら、ここ最近になって経済学者は自らのことを俗世間での露出にも耐え得る存在として売り出し始めている。データジャーナリズムの隆盛も一因となって「陰鬱な科学」の専門家たちが続々と公共圏へと足を踏み入れてきているのである。しかしながら、経済学者の意見と世間一般の意見(世論)との間にはしばしば大きなギャップが存在している。果たして経済学者は世間一般の人々のハートを掴み、世論を変えることができるのだろうか? それとも経済学者の意見は世間一般の人々の既存の信念(訳注;各人が前々から正しいと信じ込んでいること)を正当化したり補強するために利用されているに過ぎないのだろうか?

デューク大学に在籍する政治学者らが共同で執筆した新たな論文(*)によると、経済学者は世論に影響を及ぼす力を持っているという。しかしながら、それはあくまでテクニカルな話題に限られるということだ。政治的にホットな話題(訳注;政治の場で論争の的となるような話題)については経済学者は世論に対してそれほど影響を及ぼすことができないというのだ。この論文では、世間一般の人々が経済学者という存在に対してどのようなイメージを抱いているか――信頼できるかどうか――を聞き取り調査を通じて明らかにするとともに、経済学者の間でコンセンサスが得られている政策問題(例えば、移民の受け入れ金本位制への移行の是非など)について世間一般の人々がどのような意見を持っているかが調査されている。そして世間一般の人々が「専門家のコンセンサス」に触れた結果として自分の意見を変えるかどうか、経済学者に対するイメージを見直すかどうかが検証されている。

さて、その結果やいかに? まずは悪い報せから取り上げることにしよう。経済学者の間でコンセンサスが得られている問題について意見を尋ねたところ、聞き取り調査に回答した(世間一般の)人々のうち――「わからない」と答えた人は除く――大多数はいずれの問題についても経済学者とは異なる意見を述べた。さらには、回答者のうちわずか59%だけが「経済政策」に関わる経済学者の意見を信頼すると答えた。それもその大半は「少しだけ信頼する」というに過ぎなかった。経済学者に対する不信の程度はどの属性のグループの間でも大体似たようなものだったが、そのような中でも経済学者を信頼すると答える可能性が特に低かったのは政治的に右寄りの回答者だったという。

しかしながら、良い報せもあるにはある。回答者がそれぞれの問題について自らの意見を述べた後に「専門家のコンセンサス」を伝えられると、多くの回答者は自らの意見を変えて「専門家のコンセンサス」に同意する傾向が見られた。しかしながら、その効果の大きさは問題の性質によって違っていた。 金本位制への移行の是非や今後の税収予測といったテクニカルな問題については回答者の多くは「専門家のコンセンサス」を知るや(直前の自らの意見を変えて)それに同意する傾向にあったが、中国との貿易問題や移民のメリットといった政治的にホットな問題については「専門家のコンセンサス」が世論を揺さぶる力(訳注;世間一般の人々の意見を変える力)は弱々しいものであった。そればかりではない。政治的にホットな問題について自分の意見が「専門家のコンセンサス」とは違うことを知るや、回答者たちの経済学者に対する信頼の程度は大きく低下することになったのである。テクニカルな問題についてはそのような結果は観察されなかった。テクニカルな問題については自分の意見と「専門家のコンセンサス」が違うことを知っても回答者たちの経済学者に対する信頼の程度は影響を受けなかったのである。感情に訴えるような(政治的にホットな)話題については世間一般の人々は経済学者の意見を自らの偏見(あるいは既存の信念)にお墨付きを与える手段として利用しており、そのような手段として利用できないと知るや「経済学者なんて信頼できない」との判断に傾く。そういう次第になっているのかもしれない。

経済学者が公共政策に影響を及ぼす――そして望むらくは改善する――ためには世論を納得させることが極めて重要である。そうする上ではどのようなアドバイスを送るのが適当だろうか? テクニカルな話題にだけ口を挟むというのは有益でもないし、有望であるようにも思えない。その性質上どうしても政治的にホットになりがちな問題であっても経済学者が有益なアドバイスを送ることのできる問題は数多いのだ。しかしながら、そういった政治的にホットな問題に口を挟む際にもやり方によってはアドバイスの効果を高めることができるかもしれない。例えば、「移民を受け入れよ!」と結論だけを述べるのではなく、移民の受け入れに伴う便益を計測してその結果を前面に出して伝える・・・といったようにあえてテクニカルな語り口で語りかけるようにすれば、経済学者のアドバイスが世間から聞き入れられる可能性も高まるかもしれない。


*“Economists and Public Opinion: Expert Consensus and Economic Policy Judgments” Christopher D. Johnston, Andrew O. Ballard. Working paper

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