最近よく耳にする「QEⅡ」って何なのだろうか? QEというのは、Quantitative Easing(量的緩和)の略だ。前にも試みられたことがあり(1度目のQEということで、「QE I」と呼ばれている)、これから再度試みられようとしているが(2度目のQEということで、「QE II」と呼ばれている)、そのメカニズムについてはイールドカーブ(利回り曲線)を用いて説明することができる。イールドカーブというのは、債券だとかの金融資産の期待利回り(≒金利)が満期(償還期間)の違いに応じてどのように変化するかを示したもので、図示すると以下のようになる。

横軸には、債券だとかが償還されるまでの期間がとられている。FF市場(コール市場)で取引されるオーバーナイト物(翌日物)の貸借のように満期が短い金融資産が左側に位置していて、満期が30年のモーゲージ(住宅ローン)のように満期が長い金融資産が右側に位置している。中間には、左から順に3ヶ月物、6カ月物、1年物、5年物、10年物、20年物だとかの金融資産が位置している。縦軸には、期待利回りがとられている。イールドカーブは右上がりの形状をしているのが一般的である。お金を手放して投資に回す期間が長くなるほど、見返りとして高い利回りが必要とされるからである。
住宅バブルが発生するまではどうだったかというと、Fedはイールドカーブ全体を上方あるいは下方にシフトさせることができた。財務省短期証券(TB)の売り買いを通じて、長期金利も短期金利もどちらもコントロールできていたのである(下図参照)。

しかしながら、住宅バブルが発生してから崩壊するまでの間に、Fedはイールドカーブの右側をコントロールできなくなったかのように見えた。FedがTBを売り買いしても、長期金利にそこまで影響を及ぼせなくなったのである(下図参照)。

企業による設備投資の決定だとか、家計によるあれこれの決定だとか――新築住宅の購入だとか、車や冷蔵庫のような耐久消費財の購入だとか――は、長期金利の変化によって左右される面が大きいので、長期金利にそこまで影響を及ぼせなくなってしまったという事実は、Fedにとって心配の種になった。Fedが長期金利にそこまで影響を及ぼせなくなった理由については完全には解明されなかった。金融危機が勃発してそれどころではなくなったからである。しかしながら、打つ手がないわけではない。イールドカーブの右側に位置する満期が長めの国債を売り買いすればいいのである。そうすれば、長期金利を望む方向に変化させられる可能性があるのだ。
「QEⅡ」でやろうとしているのがまさにそれなのだ。従来のように満期が短い金融資産を売り買いするのではなく、満期が長めの金融資産を売り買いしてイールドカーブの右側に直接働きかけようとしているわけで、それ以外の面では伝統的な金融政策と何ら変わらないのである。
しかしながら、イールドカーブの右側に直接働きかける必要性が生じているのは、金融危機が勃発する直前までのようにFedがTBを売り買いしても長期金利にそれほど影響を及ぼせないからというわけじゃない――住宅バブルが弾けると、TBの売り買いを通じて長期金利に再び影響を及ぼせるようになった――。イールドカーブの左側にある短期金利をもうこれ以上引き下げられなくなってしまったからなのだ。
Fedがイールドカーブの左側に働きかけることができないのは、Fedが操作対象にしている短期金利――オーバーナイト物のFF金利――の水準が現時点でほぼゼロ%だからである。もうこれ以上引き下げられないのだから、イールドカーブの左側に働きかけても大して効果は生まれないだろう。しかしながら、満期が長めの金融資産を買えば、長期金利を引き下げることは依然として可能なのだ(下図参照)。

長期金利が低下すれば、企業による設備投資や家計による消費が刺激されるかもしれない(為替レートが減価して純輸出が増える可能性もあるが、Fedとしては「QEⅡ」で為替レートを変化させるつもりはないらしい。詳しくはこちらを参照されたい)。
そこで、「QEⅡ」の登場である。イールドカーブに働きかけるという意味では、「QEⅡ」も伝統的な金融政策と何ら変わらないのだ。
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