2010年11月25日木曜日

Mark Thoma 「QEⅡって何?」


Mark Thoma, "What is QEII?"(moneywatch.com, November 15, 2010)


最近よく耳にするQEⅡとは一体何なのであろうか? 日本語で量的緩和と訳されるQuantitative Easing(QEと略される)-かつてFedも一度実施したことがあり(1度目のQEということでQEIと呼ばれる)、近々再度実施にうつされる見込みである(2度目のQEということでQEIIと呼ばれる)-のメカニズムについては、イールドカーブ(利回り曲線)を用いて説明するのがわかりやすいだろう。イールドカーブというのは、金融資産の期待利回り(≒金利)が資産の満期の違いに応じてどのように変化するかを以下のように図示したものである。



横軸には各資産の満期までの長さがとられている。一番左端にはFF市場(コール市場)で取引されるオーバーナイト物(翌日物)の金融資産が、右端にはモーゲージのような30年物の金融資産が位置している。オーバーナイト物と30年物モーゲージとの間には、満期までの長さが短い順に、左から3ヶ月物、6カ月物、1年物、5年物、10年物、20年物といった金融資産が位置することになる。縦軸には満期の違いに応じた各資産ごとの期待利回りがとられている。一般的にはイールドカーブは右肩上がりの形状を持つことになる。手元の貨幣をより長い期間にわたって投資するよう投資家に促すためには満期までの長さが長くなるに応じて追加的に高い利回りが必要とされることになるからである。

住宅バブルが発生する以前の時期においては、Fedは財務省短期証券(TB)の売り買いを通じてイールドカーブ全体を上方あるいは下方にシフトさせることが可能であった。つまり、住宅バブル以前の時期においては、Fedは長期金利と短期金利のどちらもともにコントロールしていたわけである(下図参照)。



しかしながら、住宅バブル発生~住宅バブル崩壊以前の時期においては、Fedはイールドカーブのロングエンド(右端)に対するコントロールを失ったかのように見えた。つまり、FedによるTBの売り買いがもはや長期金利に対してそこまで大きな影響を及ぼすことがなくなったかのように見えたのである(下図参照)。



企業による(実物)投資の決定や家計による新規住宅の購入決定や車や冷蔵庫のような耐久消費財の購入決定は、主に長期金利の動向に影響を受けるので、この事実(=長期金利に対するFedの影響力の低下)はFedの政策担当者にとって心配の種となることになった。しかしながら、長期金利に対するFedの影響力がなぜ低下したのかその理由が完全に解明される前に金融危機が勃発し、そのために人々の注目はこの問題から逸らされることになってしまった。ただ、TBの売り買いを通じた長期金利への影響力が低下したとしても、Fedの手元には長期金利の水準を自らが望むような方向に変化させ得る他の手段が存在している。その手段というのは、長期国債-イールドカーブのロングエンドに位置する金融資産-の直接的な売り買いである。

まさにこれこそがQEⅡの本質である。QEⅡは、従来のように短期資産の売り買いを通じてではなく、長期資産の売り買いを通じてイールドカーブのロングエンドに働きかける政策であるが、イールドカーブのロングエンドに働きかけるという点では伝統的な金融政策と何ら変わるところはないのである。

しかしながら、現在、長期資産の直接的な売り買いを通じてイールドカーブのロングエンドに働きかける必要性が生じている理由は、危機勃発以前のようにTBの売り買いを通じた長期金利への影響力が低下してしまったからではなく-住宅バブルの破裂後にはTBの売り買いを通じた長期金利への影響力は回復した-、もはやFedはイールドカーブのショートエンド(左端)の金利を操作することができないからである。

目下のところ、Fedはイールドカーブのショートエンドに働きかけることはできない。というのも、Fedが政策的に誘導している短期金利-オーバーナイト物のFF金利-の水準は今やほぼゼロ%だからである。これ以上さらに短期金利を引き下げることはできないのであるから、イールドカーブのショートエンドへの働きかけは大して効果を生むことはないだろう。しかしながら、Fedは依然として(長期資産の購入を通じて)イールドカーブのロングエンドの金利を引き下げることは可能なのである(下図参照)。



今現在望まれていることは、イールドカーブのロングエンドに位置する資産の利回りが低下することで企業による新規の実物投資や家計による消費が刺激されるようになればいいが(為替レートの減価を通じた純輸出の増加という効果もあるが、どうやらFedにはQEⅡを通じて為替レートを変化させようとする意図はないらしい。詳しくはここを参照のこと)、ということである。

そこでQEⅡの登場である。イールドカーブに沿って機能するという意味でQEⅡは伝統的な金融政策そのものに他ならないのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿