Tyler Smith, “Recovering from economic depressions: Did ending the gold standard help countries escape from the Great Depression?”(Research Highlights, American Economic Association, January 23, 2024)
金本位制からの離脱が1930年代の大恐慌(Great Depression)を終わらせるために必要な第一歩だったというのが多くの経済学者の考えである。そのことを裏付ける何よりの証拠がアメリカの経験である。しかしながら、一つの例あるいは一部の例から一般的な結論を導き出すのは軽率かもしれない。
金本位制からの離脱が1930年代の大恐慌(Great Depression)を終わらせるために必要な第一歩だったというのが多くの経済学者の考えである。そのことを裏付ける何よりの証拠がアメリカの経験である。しかしながら、一つの例あるいは一部の例から一般的な結論を導き出すのは軽率かもしれない。
大恐慌から抜け出すのを支えた真因は何だったのか? そのことを探るためにこれまでで最も包括的なデータを使って検証を加えているのが、アメリカン・エコノミック・レビュー誌の2024年1月号に掲載予定のマーティン・エリソン(Martin Ellison)&サン・セオク・リー(Sang Seok Lee)&ケヴィン・オルーク(Kevin Hjortshøj O'Rourke)の三人の共著論文――“The Ends of 27 Big Depressions”(American Economic Review 114 (1): pp. 134–68)――である。27カ国が対象になっていて、最先端のナウキャスティングの手法を使って1500以上の変数について月次ないしは四半期の23万件を超えるデータに分析が加えられている。
金本位制から離脱する前後で物価水準と産出量にどんな変化が生じたかを跡付けたのが、三人の共著論文から転載した以下の図(図11)である。ベルギー、カナダ、デンマーク、エストニア、フィンランド、日本、ニュージーランド、ペルー、南アフリカ、スウェーデン、イギリス、アメリカの計12カ国が対象になっている。いずれも金本位制から離脱した日付がはっきりしている国である。
横軸に直行する垂直線よりも左側が金本位制から離脱する前で、右側が金本位制から離脱した後である。赤色の実線は、アメリカの物価水準と産出量の推移を表している。濃い黒色の実線は、アメリカを除く11カ国の平均値を表している(産出量については、データの制約もあって、ペルー、ニュージーランド、デンマーク、エストニア、フィンランドが除かれている)。
金本位制から離脱するまでは、12カ国すべてで物価水準が下落傾向にあった。金本位制から離脱した後はどうだったかというと、大半の国で物価水準が急速に安定した。多くの国では、産出量も盛り返した。アメリカなんかは特にそうだ。しかしながら、産出量が下落し続けた国もいくつかあった。上の図に照らす限りだと、金本位制から離脱したおかげで産出量にどんな効果が及んだかについて明確な結論は下せない。
金本位制からの離脱がどんな効果を持ったかを推計するために、エリソン&リー&オルークの三人は別の手法も使って分析を加えている。そして、金本位制からの離脱がインフレ期待を喚起して実質金利を低下させたことを見出している。 実質金利が低下したおかげで、景気が回復したというのである。
通貨制度が大きく変わると、インフレ期待が喚起されて総需要が刺激される可能性があるのだ。金本位制からの離脱がその典型例なのだ。