2023年4月18日火曜日

Richard Baldwin 「『ワインの経済学』が明かす『お得なワイン』とは?」(2008年6月28日)

Richard Baldwin, “Wine economics and economical wine”(VOX, June 28, 2008)
身近にある気楽な話題に切り込んだ厳密な研究によると、テロワール(ブドウの生育環境)はワインの質と関係ないようであり――ワインの値段となると話は別――、ワイン「専門家」の意見(評価)はワインの将来(飲み頃になった頃)の質や値段を予測するのに役立たないようだ。

経済学者の手にかかると、何もかもがつまらなくなってしまうのはどうしてなんだろう?

世界中のワイン愛好家の間では、テロワール(ブドウの生育環境)の細部について語らうのが楽しみの一つになっている。サン・テステフ村とポイヤック村を比べると、ワイン用のブドウを栽培するのが難しいのはサン・テステフ村の方というのが目利きたちの間で一致した意見だ。その理由は、サン・テステフ村の土壌の方が重みも厚みもあるから・・・ですよね?

そんなのは戯言(たわごと)だ!・・・と語るのは、オリヴィエ・ジャーゴウ(Olivier Gergaud)&ヴィクター・ギンスバーフ(Victor Ginsburgh)の二人だ。エコノミック・ジャーナル誌に掲載された彼らの共著論文では、100箇所のブドウ園を対象に、テロワール――土壌の特徴、日当たりの良さなど――に加えて、ワインがどんな方法で製造されているか――どの種類のブドウを栽培しているか、ブドウをどのようにして収穫しているか、ワインをどのように瓶詰めしているか等々――についてもデータが集められている。そして、そのデータをワインの質を測る指標(専門家らによる評価、競売価格)と突き合わせたところ、テロワールは鍵を握っていないことが見出されたという。ワインの質を左右するのは、テクノロジー(ワインの製造方法)だというのだ。「テロワールこそが重要なのだ!」と説くフランス発の神話はそう簡単には解体されないだろうが、お金を賢く使いたいならそんな神話なんて無視すべきなのだ。

エコノミック・ジャーナル誌の同じ号には、テロワール神話解体派の首領(ドン)とも言えるオーリー・アッシェンフェルター(Orley Ashenfelter)の論文も掲載されている。アッシェンフェルターによると、ボルドー産のワインは年を重ねるほど(熟成が進むほど)味わいがよくなるおかげで、同じワインであってもしばらく待っていたら倍の値で売れるという。ボルドーワインを若いうちに飲んでしまうつもりなら、デキャンタする(ガラス容器に移し替えて空気に触れさせる)のをお忘れなく。

マーケットが素面(しらふ)でちゃんと機能しているようなら、ワインの先物価格(まだ樽に入っている出荷前のワインに付けられる値)は、そのワインが飲み頃になった時にどのくらいの値で手に入れられるかを先取りして伝える偏りのない指標になっているはずだ。しかしながら、現実はそうなっていない。それぞれの生産年度(ヴィンテージ)のボルドーワインの質や値段(飲み頃になった時の値段)はそのワインが製造された年(そのワインを作るのに使われたブドウが収穫された年)の気候によってうまく予測できる。しかしながら、気候という簡単に測れる決定因は、ワインの先物取引で買い手に回る諸君にすっかり無視されてしまっている。その代わり、出荷前のワインに付けられる値に影響を及ぼしているのがその道の専門家による試飲結果――とりわけ、ロバート・パーカー(Robert Parker)が試飲して下した評価(点数)――だ。

お金を賢く使いたいなら、パーカーの評価なんて無視すること。その代わり、ワインが製造された年の気候情報に加えて、アッシェンフェルターの論文――“Predicting the Quality and Prices of Bordeaux Wine”(「ボルドーワインの質と値段を予測する」)――のコピーを手に入れるのをお薦めする。

・・・というアドバイスは、値段相応のワインを「味わう」つもりのようなら申し分ないと言えようが、ワインで「お金儲けをする」つもりのようなら別のアプローチを試す必要がある。ケインズがいみじくも喝破しているように、美人投票で誰が一位になるかを予測するためには、「誰が美しいか」を判断するのではなく、「みんなが誰を美しいと判断しているか」を判断するのが肝心になってくる。ボルドーワインに関しては、 あの人の判断を無視するわけにはいかない。それは誰かというと、・・・そう、ロバート・パーカーだ。

巧みな手を使って「パーカー効果」の大きさを推計しているのがマイケル・ビサー(Michael Visser)らの論文である。ボルドーまでわざわざ足を運んで、出荷される前のワインを試飲して点数を付けるというのがパーカーの長年の習わしだった。パーカーが下す評価は、ワインの先物価格にかなり大きなインパクトを及ぼしていることが統計分析の結果として明らかになっている。しかしながら、2003年に関してはそうはならなかった。イラク戦争を恐れてか、パーカーは春になってもボルドーを訪れなかった。そのため、2003年に関しては、パーカーが評価を下す前に既に先物価格が決まっていたのである。ビサーらの論文では、およそ250種類のワインの2002年と2003年の分の先物価格のデータを比較して、「パーカー効果」の大きさが推計されている。その大きさは、ワイン1本あたりおよそ2.8ユーロになる(パーカーの評価が加わるだけで、ワインの先物価格が平均すると2.8ユーロくらい高まる傾向にある)ということだ。

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